(主として文献1に基づく)
広島大学名誉教授 嶋津孝之
大地震の破壊エネルギーは、極めて大きく広範囲に深刻な影響を及ぼす。この破壊エネルギーが都市などの各場所の地盤に伝わって、建築物の倒壊等が発生する。その場合、各場所の地盤の状態が建築物被害の程度に影響する。硬質地盤の場合は、地震破壊エネルギーは建物にそのまま入っていく。その結果、RC造、SRC造あるいは組積造の中低層建物など、いわゆる「剛構造」は大きな加速度を受け、倒壊に至りやすい。それに対して、高層建物は、層数が多いため、一層毎は低層以上に硬くても、全体として「柔構造」になり、変形がしやすくなり、大きな加速度を受けないですむ。一方、軟弱地盤の場合は、地盤が地震破壊エネルギーをある程度吸収するので、上記「剛構造」は、地盤と一緒に揺れるものの倒壊には至りにくい。逆に、高層建物の場合は、地盤との共振が起きて大きく揺れる可能性がある。また、軟弱地盤の場合は、地震の破壊エネルギーによって地盤自体が破損しやすく、液状化を生じ、建物を支持する杭の破損で建物が傾いたり、地中のライフラインが破損したりすることになる(文献1)。
なお、地層でいえば、硬質地盤はいわゆる洪積層で、軟弱地盤は沖積層である。特に、後者は、三角州の場合が多いが、海に近いところでは、液状化が生じる。
1923年の関東大震災以降、2011年の東日本大震災に至るまでの、日米中の各大地震での硬質地盤上と軟弱地盤上の各建築物の被害状況をまとめると、表1の通りとなる。上記の地盤の硬軟と建築物被害の関係を裏書きしている。
表1 硬質地盤と軟弱地盤における地震の建築物被害状況
地震(Mと死者数) | 硬質地盤 | 軟弱地盤 |
---|---|---|
1923年関東地震 (M7.9 10万以上) |
土蔵の被害多 | 木造の被害多 (土蔵の被害有) |
1976年唐山地震 (M7.8 24万以上) |
組積造の被害多 (都市壊滅) |
組積造の被害少 (地盤の液状化) |
1989年ロマプリータ地震 (M6.7 62人) |
一部RC造の被害大 | 木造の被害大 |
1994年ノースリッジ地震 (M6.7 57人) |
組積造の被害多 一部RC造被害大 |
木造の被害多 |
1995年兵庫県南部地震 (M7.8 6432人) |
RC造の被害多 (SRC造被害大) |
建物沈下 (地盤の液状化) |
2008年四川大地震 (M7.9 87000人) |
RC造、組積造の被害多 | RC造の被害少 |
2011年東北地方太平洋沖地震 (M9.0 15341人) |
原子力発電所事故 RC造、SRC造の被害 |
津波による建物 崩壊多 |
東日本大震災では、原子力発電所事故が生じ、広範囲かつ長期的に深刻な汚染問題を起こしているが、原子力発電所は岩盤の上に設置されている。いわゆる、硬質地盤上である。最近、文献2によって、事故の実体が明らかとなった。原発の事故は、まず、地震動によって、常用電源が喪失して、その後、津波によって、非常用電源が喪失したようである。原発は常時水を補給しなければならないが、この原発は電源がストップしたため、水素爆発を起こした。原発及び常用電源系の下に免震装置を入れていれば、事故を防げたのではないのだろうか? もっとも、免震装置が実用化されたのは1980年代で、福島原発の設置より後のことである。
最近の国内外の知見によれば、硬質地盤域に活断層が存在して震源になる場合、水平地震動ばかりでなく大きな鉛直地震動も生じることが観測されている。また、この度の原発事故で、廃炉問題が深刻であることが明らかとなり、免震装置のレトロフィット利用も不可のようである。
文献
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